<body>[PR]<A HREF="http://rd.ane.yahoo.co.jp/rd?ep=kWXnnht7zmqC.k434OLVC7vtvol4b0dgkKpYnG6YLI.8l7aP20H6M_y92kx.85NNCOUCkJViQ5c4rq8voOQAcGoISfYe5brdLWE0uURQTv7n0i3RJ3YQDHL0HFeGacPYs1_0pYwQQ4b0agZoCN95wHq80oVxZ97eLSlT4HR.itPUCEB5.UJAU6h1COkePL4S.ahr&a=d0teNaQ9lm.HoL5bVUxK&s=rHQ0Uw49kWcuuA--&t=Ff14iMxhwysI&C=1&D=2&i=0&m=jp&F=0&guid=ON">人気の着メロ着うたフルも無料:掲示板で話題の曲を今すぐダウンロード!</A><BR /><HR> Reset me

【Episode ♯2】














    Reset me










一件の新着メールが届いていた。

 『またか。。』

男は吐き捨てるように呟くと、いつものように
ソレを開くことなく削除ボタンをクリックした。
中身は見なくても分っている。どうせまたアレだ。。
男は上着を無造作に背もたれに掛けると、
ソファーに座り、テレビのスイッチを入れた。

 《次のニュースです。今日の国会で政府は、新制度導入から
  10年が経過し順調な推移を見せているID政策を、更に
  確立したものとするため、司法機関を始めとする、現在
  オフラインの業務を、今年度中に全て…》

チャンネルを変える。

 《…やはり国民一人一人の意見を大事にするというのが、
  本来の目的であり、これこそが求められていた民主主義の
  真の姿であると…》

 『チッ。まったく、嫌な世の中になったもんだ…』

スイッチを切り、リモコンをテーブルに投げ置くと、男はソファーに横になり、
モニターに映るスクリーンセーバーの流星をボンヤリと眺めた。。。



インターネットの普及は、人々に膨大な情報と新しい可能性をもたらした。
主婦は、居ながらにして何十軒という店を物色し、納得のいくショッピングを楽しみ、
子供は、熟に通わずとも実に効率のいい、ハイレベルな講習を受け、
老人は、一人暮らしでも十分に生活できるシステムを提供された。
全てがインターネットを経由し、今や世界はインターネットを軸に
動いているようなものだった。

この国が、最先端の第一IT大国として世界から認知されたのは、
ここ数年の急成長からであったが、インターネットによる選挙の投票制度が
国会で可決されたのは、もう随分昔の事だった。 それに関連して、
当時問題になっていた個人情報の保護は、もはや個人レベルでは
セキュリティーに限界があるとの見方から行政が乗り出し、段階を踏んで、
国のシステムが個人を守るという名目の下、全ての国民は
ID化されるに至った。

それによって投票制度のインターフェイスが実現したのを皮切りに、
そのID政策が軌道に乗ると、国の公共サービス形態は飛躍的に
向上し、また、あらゆる方向での防犯体制が、犯罪を激減させた。
国民は実質、安全で便利この上ない生活を提供されたかに見えた。。


男が最初にソレを感じたのは、出張に出掛けた日の早朝だった。
空いている道を、快調に車を走らせていると、後ろから赤灯を
点けたパトカーに呼び止められた。 別に制限速度を大幅に
超えていた訳でもなく、捕まる理由などないはずだったのだが。。

 『ナンバープレートとコードナンバーの照合をします。
  IDを確認させて下さい』

パトカーから降りてきた無表情な警官の態度に、
男が少し怪訝そうな顔で渋々カードを差し出すと、
その警官は、男の顔とカードの3D写真を交互に見ながら
こう言った。

 『昨夜あなたが摂取したアルコールが分解されるのは、
  およそ6時間後です。チェックアウト時刻から換算すると、
  本来なら酒気帯びの可能性が高くなります。運転には
  十分注意して下さい』

警官はそれだけ告げると、さっさとパトカーに乗り込み走り去って行った。
男は暫し呆然としていたが、やがて警官の言葉の意味を理解した。
前日、会社帰りに同僚たちと居酒屋に行き、その後一人になってから
マンションの近くのバーで一杯やった。今のご時世、現金を持ち歩くのは
初詣の時くらいだ。当然、精算はIDカードなのだが、全てが
オンライン化された今、飲食の情報さえもデータベースに吸い上げられ、
反映されていたのだ。

住みよい環境と確立された保安を手に入れた代わりに、
強大な権力によって全ての情報が握られ、常に監視されて
いるような気がする。。 いつしか男は、そう思うようになり、
次第にこの国のシステムを疎ましく感じるようになっていった。。。



シャワーを浴び、リビングに戻ると、また例のメールが届いていた。

 『ったく、しつこいゼ。。無回答の自由はないのかよ』

男が削除し続けるメール。
それは今度採用されるであろう、司法機関のオンラインサービスについての
国政アンケートだった。 昔のような無作為な電話によるものではなく、
IDコードをフル活用した、回答率99.99%を誇る調査システムだが、
男は微かな反抗心から回答を拒み続け、0.001%erに成り上がるべく、
無回答を決め込んでいたのだった。

 『何度送ってきても無駄だ』

男が、いつものようにソレを削除すると、ほぼ同時に送受信の
アイコンが点滅し、また一件のメールが届いた。 しかし、
その文字化けした件名を不審に思い、マウスのポインタをメールの
件名に乗せると、最新型のアンチウィルスソフトが即座に反応し、
警告音を鳴らした。

Reset me メール。
一昔前に大流行したコンピューターウィルス入りメールだ。
メール文の中の、ボタンもしくはリンク状の【Reset me】を
クリックすると、一瞬にしてハードディスク内の全データが消え、
マザーボードから煙が上がる。コンピューターは完全に破壊され、
再起不能になるという、単純ながら極めて危険度の高いウィルスだった。

しかし、なぜ、そんな単純な、ある意味幼稚な仕掛けでありながら、
被害が拡大したのか。 そこには、スーパー光ファイバーにより
完全オンライン化された現代社会の盲点をついた、まさに脅威があった。

そのウィルスが最初に確認されたのは、とあるマンションに住むOLの
パソコンだった。帰宅すると一件の迷惑メールが届いており、
「このメールの配信をストップするにはコチラをクリックして下さい」の
メッセージ通り【Reset me】のリンクをクリック。次の瞬間には
パソコンの全機能がストップし、およそ20秒後にパシュ…という音と共に
煙が上がった。 驚いたOLはすぐに119番通報をし、深夜の
マンション周辺は一時騒然となったものの、火災には繋がらず事なきを得た。。

しかし、そこからが、このウィルスの脅威の始まりだった。
OLの119番通報から約10分後、別のマンション管理室からの通報を
皮切りに、各地域で同じ被害による出動要請が相次ぎ、翌朝には
各都道府県にまで同様の被害が広がっていたのだ。

原因は、このウィルスの持つ性質によるもので、【Reset me】を
クリックし感染したパソコン内に作成された【Chain Bom.exe】という
自動起爆実行ファイルが、まず最初にそのパソコンを破壊した後、
自らを暗号化し、光ファイバーを伝ってプロバイダのサーバーに侵入。
感染したパソコンから入手したアドレス宛に【Chain Bom.exe】ファイルが、
一定時間ごとにダイレクトアタックを開始する。常時オンラインが原則の昨今、
送信=受信、そして即感染となり、手を打つ間もなく、被害は瞬く間に
拡大していったのだった。

社会の要とも言えるオンライン体制において、その壊滅的な被害状況を
重く見た政府は、信頼回復と、より安全な環境を築くべく、
莫大な予算を組み、IT業界と共に総力を挙げ、光ファイバー網内に、
データを浄化する一種のブラックボックス(通称:DCB)を開発、設置するに至った。
結果、ウィルス対策は格段に強化され、オンライン体制は、利便性だけでなく、
完璧な安全性をも兼ね備えたシステムとして確立した。 これによって、
あれから現在までに、その手のウィルスによる被害も皆無になった。。

 『今更こんな子供騙しのウィルスメールを送ってくるのは、どんなヤツなんだよ。
  それにしても、よくもDCBを抜けてきたもんだな。。』

男は、かつては猛威を振るったものの、もう既に信管を抜かれた爆弾のような、
この腑抜けウィルスを鼻で笑い、興味本位にそのメールを開いた。。




*******************************************************************


送信者: 脇田 壮士
件名: %28$5%5$\7%$6¥:8/¥%28$


前略。
これはウィルスメールではありません。
当メールは、独自の調査から、我々の考えに御理解、賛同して戴ける
同士諸兄を対象に、670Ghzの超高周波にて、本線のDCB回避の上、
任意の地上波経由でスクランブル送信しています。波長環境により、
一部文字化けする恐れがありますが、ご了承ください。

私は 脇田 壮士 。東名大学名誉教授、稲川 作治 の助手
をしていた者です。 ご存知の通り、現在彼は裁判のため拘留中の身です。
今、私たちは、かねてからの計画を実行に移さざるを得ない状況に
立たされています。 政府は今、裁判の判決を全国民に委譲する、
オンライン陪審員制度を打ち出そうとしています。 これは事実関係の
正偽調査に関わらず、罪のない人間を陥れようとする極めて危険な
システムです。 しかし、この法案は現状では間違いなく可決されるでしょう。
何故なら、全ては最初から仕組まれたものだからです。

今から十年前、政府がID政策に着手した時から、既にそれは始まって
いました。 まず最初に、投票制度のインターフェイス化が進められた
のも意図的なものだったのです。 あのシステム採用以後、選挙が
行われるたびに、俗に‘ヒルズ族’と呼ばれる大手IT関連企業からの
無所属新人候補者が相次いで当選し、つい先日誕生した内閣は、
議員全てが若い無名の新人という異例の事態になった事は周知の
事実ですが、実は全て巧妙な内部操作によるものだったのです。

統一オンライン化によって、我々は日常的にサブリミナルな情報を埋め込まれ、
自分の意思だと錯覚した、不本意な表現をさせられています。 つまり、
あたかも全国民の意思を反映させ決定しているかのような、このシステム
の実体は、究極の民主主義の名を借りた、悪魔の独裁政権システム
なのです。 もうお気付きのはずです。彼らは我が国を、いや、行く行くは
世界を乗っ取ろうとしている。 稲川は当初から、IT業界絡みの政府の
動きに違和感を感じ、DCB開発、設置に至るまでの一連の事件にも
疑問を抱いておりました。 あの突発的なウィルス事件も、彼らの仕組んだ
罠だったという事は言うまでもありません。

DCB(DATA CLARIFY BOX)は、表向きは、ウィルスなどの
適切でないファイル、データの完全削除機能を誇る情報浄化処理器ですが、
一説には(DEMON CREATED BOX)の略称だとも言われ、あの装置
によって様々な情報が、手を加えられ操られているのです。 このメールは、
念のためDCBを回避しておりますが、実は当メールのように【Reset me】
ウィルスコードを使用する事によって、安易にDCBを通過できる事が、
調べから分っています。 それは、このウィルスコードこそが、現在の政府の
機密コードであり、個々の端末にダイレクト通信を可能にする特殊コードだからです。
以上の事からも、ID政策、並びにオンライン体制における一連の事柄全てが、
彼らに仕組まれた物であると御理解いただけると思います。

我々は今、人間としての自由を侵害されようとしています。
選択の自由、言論の自由、本質的な‘考える’自由etc… 人間本来の
「自由である」という基本的な権利が、作られた架空のマジョリティーに
押し潰され、完全に奪われようとしているのです。
しかし、世相の変化に無関心な現代人は、その事に全く気付いていない。
彼らは、その危機管理の甘さにつけ込み、思うがままに操ろうとしているのです。
そんな彼らにとって、唯一このシステムの危険性を説く稲川の存在は
目障りだという訳です。

オンライン陪審員制度が可決されれば、稲川は間違いなく、もう二度と
社会復帰できない刑に処されるでしょう。 そうなれば、我々人類に
未来はない。 稲川が本当に恐れているのは、彼らの利己主義的な
独裁政治ではないのです。 実は彼ら自身も、気が付かないうちに
裏で強大な力に操られているのだと、稲川は指摘しています。

今、我々が早急にすべき事は、このオンラインシステム網を正常化する事。
つまり、DCBの機能を停止させる事なのです。 下にあるボタンは、
我々が研究、改造したもので、クリックすると全DCBの回路をショートさせ、
機能を停止させるのと同時に、全5%$¥8%2\7%%$¥%28\7
%5$%2:8%\7%¥:8$%285$\7%$6¥:8/¥%28$事ができます。
尚、DCB停止後は転送追跡システムも作動しないため、貴殿のプライバシーが
侵害される恐れもありません。 このメール受信から24時間以内に、
マイノリティー革命を起こすべく、選ばれし同士諸兄殿には何卒ご協力願いたい。



     貴殿のクリックに人類の未来がかかっています。

              【Reset %$$】



*******************************************************************


 『マイノリティー革命?フッ。。面白い』

男は、その長いメールを一通り読み終えると、不敵な笑みを浮かべ、
マウスのポインタをボタンの上に乗せた。

 『ただのお遊びにしては、よく出来てるな』

文面どおり、ボタン自体にウィルス反応はなく、
更にこのメールに興味が湧いた男は、また、
もう一度最初からメール文に目を通した。。


東名大の稲川教授と言えば、今や知らぬ者はいないであろう時の人だった。
物理学者として世界的権威の稲川だったが、とある週刊誌にスキャンダル
記事を書かれ、マスコミの集中攻撃を浴びる事となったのだ。
稲川の国際的なテロ組織との関連疑惑に警察が動き出し、
任意同行の模様がテレビ中継され、世論が久々の大型犯罪事件の
予感に沸いたのが昨年の夏。 すぐに釈放されるも、同年の冬には
空港で緊急逮捕という劇的な展開となり、ワイドショーの
イヤーオブ・ザ・トピックに輝くほどの騒がれぶりだった。

その後も、海外での悪行発覚のニュースが、やたらと派手ハデしく報じられ、
稲川は教授生命を断たれるどころか、人間的にも追い詰められていった。

男も、この報道を興味本位に眺めていた一人であったが、
ただ一人、政府のやり方に異論を説くこの稲川という男に、
どこか共感を覚えていたのも確かだった。

 『同士か。うまい言い回しをするな』

男は、イタズラにしてはよく練られたこの文章(ストーリー)が妙に気に入り、
再びメール全文を読み終えると、自分のリスクがない事を頭の中で再確認し、
当然、ウィルスメールと知りながら、そして、既に感染の恐れすらない事も
十分に承知の上で、小さく密かな反乱に胸をときめかせつつ、
静かにそのボタンをクリックした。。







翌朝、男はインターホンの音で目が覚めた。

 『誰だ朝っぱらから。休日くらい、ゆっくり寝かせてくれよ。。』

男が怪訝そうな顔で、壁にある埋め込み式のモニターを見ると、
ドアの向うに背広姿の見知らぬ男が立っていた。

 『はい。何かご用でしょうか』

 《朝早くからすみません。調査局から参りました、望月と申します。
  こちらのマンションの方々全世帯に、お伺いしてまして。。。》

その望月と名乗った60代半ば位の男は、IDカードの裏にある
ホログラフの証明印を画面に向けながら、にこやかに言った。

 『どうぞ』

 《は、失礼致します。。》

男が玄関のオートロックを解除し、ドアを開けると、望月は
恐縮した様子でありながらも、親しげな明るい声で尋ねた。

 『いやぁ、しかしこちらは実に立派なマンションですなぁ〜。
  お一人でお住まいですか?』

 『ええ、独身ですから』

 『ここならいつでも、お相手の方お迎えできますなぁ。。ぁ、いや、
  余計な事を。失礼致しました』

望月は、恐らく外回り歴が長いのであろう、突然の訪問者に対する
警戒心を和らげるように、気さくな雰囲気を醸し出していた。
しかし二言三言、世間話が終わると、望月は急に真面目な顔で話し始めた。

 『実は、今日お伺いしましたのはですね、最近、各地で発生している
  有害電波についての調査を国から依頼されたからなんです』

 『有害電波。。?』

 『ええ。ご存知かと思いますが、現在540Ghz超の高周波は、
  様々な弊害を引き起こす原因となるため、違法となっておるんですが、
  最近、急に各地域で検知され始めたんですわ。それで今日は
  こちらの地区を回る予定になってまして。。。』

男は高周波と聞いて、一瞬、昨夜のメールの事が頭を過ったが、
国の関係人物に、堂々と打ち明けられるような内容の話ではなく、
表情を崩さずにいた。

 『…という訳なんです。何か生活に支障などありませんでしょうか?』

 『いいえ。特に何もないですね。。』

 『そうですか、それならいいのですが。 いえ、今朝方になって、
  この地区のDCBが、原因不明の故障を起こしましてね。
  さっそく高周波の影響が出たのではないかと』

 『故障。。ですか?』

男は、その原因が、まさか昨夜の自分のクリックによるものではないかと
内心焦ったが、ただの偶然だろうと思いなおし、平静を保った。

 『いや、本来、外部からの障害によって誤作動を起こす事など
  考えられないんですがね。DCB自体が電磁波のコントロールをして
  データの浄化を行うという仕組みの機器ですから。ただ、今の所その位しか
  故障の原因が思い当たらないというのが正直なところでして。。
  ましてや、まさか今更あんなウィルスが原因になるとは考えられないですし。。』

 『ウィルスって、あの。。』

 『ええ、10年前に流行った、あの【Reset me】ですよ。どういう訳か最近になってまた急に。。
  ほら、一週間前くらいから、政府が国政アンケートなどと一緒に注意文で
  呼びかけてますでしょ。 まぁ、DCBによって当時のようなオンライン
  体制の脆弱性を克服した今となっては、全く恐れるに足らん訳ですが。
  ただ、今回のは亜種の数がやたらと多いらしくて、対策ソフトの認識が
  未だに追いついておらず、場合によっては検知されずに
  通り抜けてしまう可能性もあるらしいですがね』

 『で、でも、ウィルスのせいだったとしても、
  今の時代、あんな状況になる事はないですよね?』

 『ええ。今回のあれは恐らく子供がイタズラで作り、ばらまいたものだろうと
  見られているようですな。 現段階で確認されている亜種のデータを
  分析した結果でも、発症しても以前のような機動性も破壊要素も未検出。
  まぁ、いづれにしても、こちらからアクションを起こさなければ何の悪さもしない上に、
  今更こんな仕掛けに引っ掛かる人なんているはずがないですから。。』
  
  
  


望月が帰った後、男はソファーにドカッと座り込み、
天井を仰ぎながら、フッ。。と短く鼻で笑った。

 『亜種だったか。。 やられたな。。』

国政アンケートを無視し続けていたせいで、政府からの通達を
知らずにいたとは言え、あのタイムリーな話題と、リアリティーのある内容に、
すっかりと魅せられてしまい、今更誰にも相手にされないほど古典的な仕掛けに
引っ掛かった自分を情けなく思いつつも、男は、そのウィルスが極めて
危険度の低いものであった事に胸をなで下ろした。

 『それにしても、あれだけ凝った演出をするとは。
  子供が作ったにしては手が込んでるように思うんだが。。』

思いがけず早く起こされ、すっかり眠気も覚めてしまった男は、
何か胸に引っ掛かったまま無意識にテレビをつけた。
普段は見る事のない時間帯のワイドショー番組では、
新ドラマの紹介で、主役の若いタレントが笑顔で受け答えをしていた。
男は特別に興味もなく、それをただボーっと眺めていたが、
急に切り替わった画面が男の目を引いた。

 《番組の途中ですが、ここで緊急ニュースをお知らせします。
  たった今、政府は新型ウィルスに関連して、国家警戒体制を
  最高値のレベル5に引き上げ、全土に戒厳令を適用する事を
  発表しました。緊急会見の模様を中継でお伝え致します》
  
 『新型ウィルス? レ、レベル5って。。。』

警戒指数:レベル5と言えば、既に戦争が始まっていてもおかしくない
数値だった。 通常、何らかの有力情報があった時のテロ警戒でも
せいぜいレベル4だというのに、ましてやコンピュータウィルスに関連した
警戒で最高値に引き上げるなどという事は有り得ない事だった。

 『一体どういう事だよ』

男が身を乗り出して、テレビ画面に食いつくと、まだ若い新人の
官房長官が、深刻な面持ちで資料を読み上げる様子が
画面に映し出された。

 《本日、午前2時06分、総理官邸に、犯行声明文と
  みられる文書がメールで届き、現在調査中であります。。》

 《そのメールの内容は、どんなものだったんですか!》

重なり合うフラッシュの合間から、記者のうちの一人が質問を投げる。

 《メールの内容は。。今、手元にコピーがございますのでそのまま読み上げます。

  「愚かなる電脳崇拝者たちよ。サイは投げられた。
   今、我々の意思を汲んだ一般市民自らの手によって、最後のチャンスが
   与えられたのだ。 これ以上の電脳支配は、やがて人類を滅亡へと導く
   危険性がある。24時間以内に、オンライン陪審員制度案を取り下げ、
   稲川を釈放しろ。さもなくば、既に手遅れとみなし、自爆テロを決行する」

  というものです。送信者は、脇田と名乗る国際テロ組織の
  一味と思われる人物からであります。尚、身柄拘束中の、元、
  東名大学名誉教授である稲川被告との関連については…》
  
 『わ、脇田。。?つーか国際テロ組織って! あのメールは、
  やっぱりただのイタズラぢゃなかったのか!?』

男が、大変な事件に巻き込まれてしまったのヵオレヮ!などと動揺する間もなく、
液晶画面の向こうで、記者団が口々に質問を投げつける。

 《このメールと新型ウィルスの関連について、詳しくご説明ください!》
 《レベル5への引き上げ理由と、戒厳令適用に至るまでの
  経緯についてもお願いします!》

官房長官が、ハンカチで額の汗を拭きながら冷静さを保つ。

 《えー、先日より各地で確認されておりました、極めて古いタイプの
  コンピュータウィルス【Reset me】が、実は特殊な動作をする事が
  昨夜遅くに明らかになり、本日、新種として認識、判断致しました。
  また、送られてきたメールと、この新型ウィルスに使用されたコードが
  一致したため、今回の事件に深く関わるものであるとの見方をしています。
  戒厳令は、万が一の予告テロ実行を想定し、国民の安全を守るためには
  必須だと考え、発令した次第であります。。》
  
 『何てこった』

男は、ソファーから立ち上がると、デスクに座り、メールボックスを開いた。
送信箱を見ると、昨夜のボタンクリック時刻が、2時04分となっていた。

 『やっぱり。。 「サイは投げられた」ってのは、俺のクリックによって
  という意味か。 しかし、自爆テロなんて物騒な。。 ん?』

男が、ふと受信箱に開いていないメールがある事に気付き、
そのメールを開くと、それは脇田からの返信メールだった。
受信時刻は、男がベッドに入って間もなくの頃のようであった。。

 

*****************************************************


送信者: 脇田 壮士
件名: Re:re:%28$5%5$\7%$6¥:8/¥%28$


前略。
我らが同士諸兄殿。貴殿のご理解に深く感謝致すとともに、
敬意を表します。 貴殿の素早い決断は、人類の未来にとって
意味のあるものであったと確信致しております。

もしも、この革命が不発に終わった時、我々は共に新天地に
旅立とうではありませんか。 人間が人間として生きていける
時代が再び訪れる事を信じて。

  同士諸兄殿の幸運を祈っております。

                脇田


*****************************************************



 『新天地に旅立つ。。。?』

男が首を捻っている間にも、
テレビから記者と官房長官のやり取りが続けられる。

 《政府としては、今回の予告テロに対して、
  どのように対処する方向でお考えですか!》

 《内閣で協議した結果、我が国としましては、如何なるテロリズムにも
  屈しないという信念を持って臨む事で、国家保安とテロ撲滅に
  全力で努めていく所存であります》

 《それは、今回のテロを未然に防ぐべく手段を、
  既に考えているという意味でしょうか?》

 《テロリストが、どの様な形で仕掛けてくるのか。 レベル5体制は、
  あらゆる方向から対応するためのものですので。。》

 《万が一の場合、国民の安全性は保障されるのでしょうか!》

 《もちろん、国民の安全を第一に考え。。。》

受け答えをする官房長官に、横から一枚の紙が手渡される。

 《えー。。たった今、総理官邸に新たなメールが届いたようなので、
  読み上げさせていただきます。。》

周囲の記者団が一瞬にして静まり返る。

 《 「どうやら我々の意思は伝わらなかったようだ。 これ以上の交渉は
    時間の無駄だと判断した。非常に残念な事だが、計画を実行に移す。
    神は、人の上に人を創らず、人の心は何者にも侵されぬ
    尊いものである事を約束させ人類に命を吹き込んだ。 しかし一部の人間が、
    自ら創り上げた悪魔に魂を売り、人の上に悪魔を創ってしまったのだ。
    これは見せしめである。 全世界に向けたメーッセージである。
    神に代わって、地球上からこの悪魔を消滅させる。 以上」 。。。。》

液晶画面の向こう側が、水を打ったような静けさに包まれる。
やがて、画面が緊急ニュースのアナウンサーへと戻された。

 《中継の途中ですが、今新たに入ったニュースをお伝えします。
  IT企画庁特命研究室は、「今回の事件に関連が深いとみられる
  この新型ウィルスは、10年前に流行した【Reset me】とは
  全く別の物であり、感染、発症すると、DCB内の電磁波を増幅させ、
  非常に強いマイクロ波を発生、停滞する。潜伏期は表面上全く動作せず、
  何らかの特定のキーワードによって任意のプログラムが実行される仕組みになっている。
  端末には全く影響が出ないため発覚が遅れた。サイバーテロリストによる
  DCBの破壊を目的としたウィルスである」と、正式に発表し。。。》

男はそれを聞いて、今朝、望月が言っていた有害電波は、
このウィルスの影響だったのだと納得したものの、まだ腑に落ちない点があった。

確かに、今回の【Reset me】発見当初、その性質について、
誰も見抜けなかった訳だが、確実にどこかで感染、発症していたのも事実だ。
各地域で急に高周波が検知され始めたのも、そのためであろうし、
比較的早い時期に最低でも一人、自分以外に【Reset me】をクリック
してしまった人物がいる事になる。
この手の、オンラインシステムを悪用したウィルスの性質上、
ワンクリックが命取りだという事は、もう常識になって久しいのだ。

しかし、それならナゼ脇田は、今頃になって再び、あのウィルスメールを
自分の元へ送ってきたのか。。 ナゼその必要があったのか。。。

男がデスクで腕組みをして考え込んでいると、
テレビの液晶画面の向こうが、慌しくざわめき始めた。
それとほぼ同時に、突然パソコンのモニターが勝手に鮮赤に染まった。

 『な、何だよこれ。。』

驚いて見開いた目の前。中央に小さな黒いテキストボックスが出現する。

 『これは。。。。』

 《たった今、全DCBの機能停止が確認され、我が国のオンラインシステムは、
  何者かによって完全に乗っ取られました》

再び会見の中継に切り替わっていた画面で、官房長官が声のトーンを上げる。

 《DCB全停止によるオンラインシステム網の破壊が、
  彼らの最終目的だったとしても、この後も、何らかの要求があると見て、
  政府は慎重に対処していきたいと考えております。
  オンラインシステムが異常事態に陥った今、最新の情報は
  この場でお知らせ致しますので、国民の皆さんは、
  引き続きこの放送にご注目ください。。》

血の色のようなモニターを見つめながら、男が首を横に振る。

 『いや、違う。。 きっともうこれ以上の要求なんてない気がする。。
  これ以上なんて事は。。。』

黒いテキストボックス内に、カーソルの点滅が文字を刻む。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    We declare. This is a process
    to relieve the human race. 
    God's divine protection!

(我々は宣言する。これは人類を救済するための過程である。神のご加護を!)


          -180-


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


PC内の自動翻訳ソフトが、即座にぎこちない直訳をし、
メッセージ表示が終わると、下の方に数字が現れた。

 『まさか。。!』

秒を刻むように1つずつ減っていく数字を見て、
男が、思いついたように、あの脇田からのメールを開く。
文面の最後の方。文字化けした部分を含む、周辺の文をマウスでコピーし、
翻訳ソフトの設定を変え、手動でスキャンをかける。。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    We declare. This is a process
    to relieve the human race. 
    God's divine protection!

          -94-

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 『くそっ、まだ解析できないのか』

どんどん減っていく数字に焦る男。
やがて、ポインタの砂時計が消えると、文字が表示される。


***********************************************************************************

●[ ]内をハイライト翻訳

今、我々が早急にすべき事は、このオンラインシステム網を正常化する事。
つまり、DCBの機能を停止させる事なのです。 下にあるボタンは、
我々が研究、改造したもので、クリックすると全DCBの回路をショートさせ、
機能を停止させるのと同時に、全 [5%$¥8%2\7%%$¥%28\7
%5$%2:8%\7%¥:8$%285$\7%$6¥:8/¥%28$] 事ができます。
尚、DCB停止後は転送追跡システムも作動しないため、貴殿のプライバシーが
侵害される恐れもありません。 このメール受信から24時間以内に、
マイノリティー革命を起こすべく、選ばれし同士諸兄殿には何卒ご協力願いたい。



     貴殿のクリックに人類の未来がかかっています。

           【Reset [%$$]】


●次の文字コードが翻訳されました。

[5%$¥8%2\7%%$¥%28\7%5$%2:8%\7%¥:8$%285$\7%$6¥:8/¥%28$]

  についての検索結果

[先進各国のオンライン通信衛星に接続し、超光速核ミサイル発射制御装置にダイレクトハッキングさせる]


[%$$]

  についての検索結果

[all]


***********************************************************************************


 『な、何てこった。。。』

男は、翻訳結果を目の当たりにして呆然とした。

 『俺がクリックしたのは、ウィルスぢゃなく、スイッチだったというのか。。』

テレビの騒ぎ立てる声を遠くに聞きながら、焦点の定まらない
男の目の前で、数字のカウントが一桁になる。
そして。。。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    We declare. This is a process
    to relieve the human race. 
    God's divine protection!

        -Reset all-



        Completed・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



次の瞬間、レーダーにも映らない、最新技術によって開発された
超光速核ミサイルが、IT最先進国と言われた国の、
その全てを完全消滅させた。

 自爆テロというには、余りにも多くを巻き込みながら ―――――――――――――






翌朝、各国のメディアは、このニュースを次のように伝えた。

Thus, "It was one-touch, and easy momentarily" was ruined in the world
where everything had been made possible "It was one-touch, and easy momentarily".
Dangerous to do the personal computer for a long time!

 [全てを「ワンタッチで、一瞬で、お手軽に」可能にした国が、
  かくして「ワンタッチで、一瞬で、お手軽に」滅びた。
   (この国のようにならないように)パソコンのやり過ぎに注意!]





おわり






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